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- #17 本当の幸せとは
こんにちは、高田崚史です。日本は猛暑が続いているようですね。欧州は暑い週があったと思うと涼しくなって体調管理が難しいです。 さて、前回の最後に「馬と人とが幸せ」そのためには人が楽しめば良いという話をしました。今回はもう少し深いところ、つまり、私たちの深層心理と幸せ、楽しさについてお話ししてみたいと思います。 一見、「馬との時間は楽しい」「癒される」と感じているようでも、心の奥底、つまり自分では気づきにくい場所に、無意識の抵抗感が潜んでいることがあります。これは決して悪いことではありません。むしろ、多くの人が持っている自然な反応です。 たとえば、ホースミラーリングセッションの中で、「馬に指示を出してください」と言われたとき、戸惑いや違和感を覚える方がいます。 「馬に命令するなんて傲慢では?」「うまく伝えられる自信がない」「自分にはそんな権利はないのでは」といった感情が、表には出ていなくても、心の奥でささやいているのです。 なぜこうした反応が出るのでしょうか? それは多くの場合、自分自身が“命令されること”に対して無意識に抵抗感を持っているからです。子どもの頃に強く指示された経験、否定された体験、自分の意志を尊重されなかった記憶――そんなものが心のどこかに残っていると、自分が「指示する側」に立つことが怖くなったり、罪悪感を抱いたりしてしまいます。 馬はとても敏感な存在です。あなたが「自分の意思を伝えていいのか迷っている」と感じていると、馬もその曖昧さを察知します。結果として馬も戸惑い、動きが鈍くなったり、逆に緊張感を高めたりします。 つまり、自分の内側にある抵抗感を知らないままでいると、馬と過ごす時間が無意識のうちに苦しいものになってしまうことがあるのです。 「なぜか楽しめない」「なぜか息が詰まる」「馬が思うように動いてくれない」そう感じるとき、実はそれは馬の問題ではなく、自分の中の小さな引っかかりが影響している場合があるのです。 でも、心配はいりません。これは「自分が未熟だ」という話ではありません。むしろその引っかかりに気づくことこそが、自分を知り、馬との関係を深めていく大きな一歩になります。馬との時間は、自分を正す時間ではなく、自分を知る時間です。指示を出すことが怖いなら、「なぜ自分はそれを怖いと感じるのか?」と優しく問いかけてみてください。そうして一つ一つ、自分の感情や反応の根っこに気づいていくことで、馬とのやり取りが、もっと自然で、もっと自由なものになっていきます。 馬は人の深層心理をそのまま映す鏡のような存在です。だからこそ、馬との時間は、自分との対話の時間でもあります。外からは見えない“自分の本音”に気づくことで、馬との時間が本当の意味で「楽しい」ものになっていくのです。 次回は、最近自分の中でテーマになっている、継続的な学びと変化について書いていきたいと思っています。
- #16 夢と現実を語る
こんにちは、高田崚史です。日本は梅雨が早々に明けたところもあるとか?暑くなってきますが体調には気を付けてくださいね。 さて、今日は今まで実はあまりしてこなかったことをしたいな、と思います。それは夢を語る、それと同時に現実を語る、ことです。僕らの夢というと、よく馬の社会的価値を高める、と語っています。それってどういうことでしょうか。 すごく簡単に言うと、皆さんが今感じてくださっている馬の魅力を広げたい、ということです。そして、馬という生き物がほとんどの人にとって、素敵な生き物だと感じられる世の中です。犬派、猫派、そして馬派?と聞かれるようになったら…嬉しいですね。 改めて馬の魅力を語るのはやめておきましょう。そこは皆さんの中でそれぞれ持っていただけたら良いな、と思います。ただ、その魅力というのは、馬も人も幸せであることが大事です。 つまり、現実的な話をすると、適切な環境と適切な接し方を必要とします。それがなければせっかくの馬の魅力が半減されてしまうのです。 例えば、馬一頭に対して「乗りたい!」という人が多くオーバーワークになっている時、馬の魅力は半減してしまいます。逆に、世話する人がいなくて元気があり余っている時、かなりの手練れでないと馬が興奮状態になってしまいます。 大切なのは、環境を整える人、そしてそこから少し出てしまった所でも適切な接し方ができる人の両方です。例えば、ホースミラーリングセッションではその環境の整備が必須です。その中で安心して馬とコミュニケーションを取ってもらえるわけです。ウマット会員の皆さんには馬が様々な環境にいる中で触ってもらっています。馬が疲れている時もあれば元気すぎる時もあるかもしれません。そんな中でもどうやったら、馬も人も幸せでいられるのか、追求してほしいのです。 馬も人も幸せ、というのは楽しんでください、ということです。馬が可哀そうだから、と思うのも違うし、自分よがりになるのも違います。ここを馬と呼吸を合わせながら追求してほしいのです。ある意味では、皆さんがそうなっていただくのが、僕の見たい世界への第一歩なわけです。なぜなら、100%環境を整えることは、馬が生き物である以上できないからです。 今あえて僕は、見たい世界と現実的な話を合わせてしています。この環境を整えることとか、馬も人も幸せである接し方ができる人になってもらうこと、これは時間とお金がかかることなのです。そして、僕らはそこも含めて成立させなくてはいけません。これが非常に難しい…これが今のHorse Valueの現実でもあります。 皆さんはお客様なので、こんなこと知らなくても…と思うかもしれません。でも、こんな夢と現実を一歩深く知っていただくことで、皆さんと馬との接し方や意識、向かう方向が少し変わっていく、もしくは進んでいくのではないかな、と思っているのです。 次回は、馬と人とが幸せ、というところ、実は深いところですしミラーリングセッションなどにも関わる部分なので少し掘り下げようかな、と思います。お楽しみに。
- #15 ホースミラーリングセッションの深化 vol.5
こんにちは、高田崚史です。日本は梅雨真っ只中でしょうか。雨が多い時にも是非馬には会いに行ってくださいね。 さて、今回のテーマは「実は皆さんが馬に乗っている時、関わっている時、“動”が活性化しすぎていませんか?」というお話と、「静」をつくる馬との関係性づくりについてです。 まず、動が活性化しすぎている状態とはどんなときかというと、心の中で「ちゃんとやらなきゃ」「思い通りに動かさなきゃ」「馬をコントロールしなきゃ」という気持ちが強くなっているときです。これは、交感神経が優位になりすぎて、体も心も“戦闘モード”になってしまっている状態。実は、この状態で馬に接すると、どっと疲れてしまうことが多いのです。 なぜかというと、「やらなきゃ」「支配しなきゃ」という気持ちは、常に体に力が入り、呼吸も浅くなり、馬の反応に一喜一憂してしまうような緊張感を生み出します。まるでテストの本番中のように、気が張り詰めた状態ですね。しかもその緊張が馬に伝わると、馬も不安になり、ますます言うことを聞かなくなる…という悪循環に陥ってしまいます。これが、「動」が過剰に活性化した状態の落とし穴です。 では、どうすればその状態から抜け出せるのか? ここで大切なのが、「静」の前提です。つまり、馬とのあいだに「つながっている」という感覚を育てていくこと。それが「安心」をつくり、腹側迷走神経が活性化することで、心と体が穏やかに整っていくのです。 では、その「つながり」はどうやってつくっていくのでしょうか? これはとてもシンプルなことで、「ただ馬と見つめ合う」という時間を持つことから始まります。人間同士でも、何も言葉を交わさなくても、ただ目と目を合わせることで何かが伝わる瞬間ってありますよね。馬もまったく同じです。目を見て、呼吸を合わせ、ただその場に一緒にいる時間。それだけで、馬と人とのあいだには見えない絆が少しずつ生まれていきます。 この見つめ合う時間を積み重ねることで、「自分が馬を動かす」という感覚から、「馬と一緒に動いていく」という感覚に変わっていきます。すると、自然と余計な力が抜けて、結果として馬もリラックスし、人の意図に寄り添いやすくなるのです。 ホースミラーリングセッションでは、この「静の土台」づくりがとても大切です。特別な技術や難しいことをする必要はありません。ただ、馬と目を合わせ、呼吸を感じること。その感覚が、信頼という関係性のはじまりなのです。すぐには結果は変わらないかもしれません。しかしその「少し感じられるようになる」という差の積み重ねが関係性を作っていくのだと思っています。 ということで、今回は「動」が強くなりすぎることで起きる無理と疲れ、そして「静」を育む関係性の第一歩についてお話ししました。是非、こんなことを意識しながら馬との日々を過ごしてください。そしてそれによる変化なども教えていただきたいです。一旦これでホースミラーリングセッションの深化シリーズは終わりにします。 こんなテーマで話してほしい、などあればまた教えてください。
- #14 ホースミラーリングセッションの深化 vol.4
こんにちは、高田崚史です。野馬追にご参加された皆さんお疲れさまでした。馬たちにとってもだんだん暑くなってくる季節ですね。皆さん体調に気をつけて、馬との時間を快適に過ごしてくださいね。 さて、今回もホースミラーリングセッションの深化についてお話していきます。前回は「静と動」という二つの状態を、神経系の観点からご紹介しました。静は腹側迷走神経の活性状態で、安心やつながりを感じられる状態でしたね。 ここで少しだけ「ポリヴェーガル理論」という考え方をご紹介します。(前回はこれを説明するのを忘れていました…)これは、「私たちの心と体の反応って、実は3段階あるよ」という神経の見方です。安心してリラックスしているとき、ドキドキしながら何かに立ち向かっているとき、そしてもう無理…と感じて心も体も閉じてしまうとき。それぞれに別々の神経のスイッチが入っていて、それが自分の状態を作っています。馬も人も同じようにこの神経の切り替えで反応しているんです。 今回はその中でも、最後の「もう無理…」というときに働く神経について掘り下げます。実は前回お話しした「動」が優位すぎるとどうなる、という話とも繋がります。 前回お話しした通り、動の状態とは交感神経が働いているときです。エネルギーが高まり、体が行動に向かう準備をしている状態。馬と遊んだり、乗ったり、何か目的に向かって動いているときにこの交感神経が働いています。もちろん、それ自体は良いことですし、静かな安心が土台にあるときはこの動きが「楽しい」に変わります。 でも、動きすぎるとどうなるか? 緊張やエネルギーが高まりすぎて、もう心も体もしんどい…という状態になると、今度は「背側迷走神経」というシャットダウンのスイッチが入ります。これは、人でいえばぼーっとしたり、感情が出なくなったり、「考えるのが面倒」になってしまうような状態。馬も同じです。フリーズしたり、反応が薄くなったり、何となく「気が抜けた」ような状態になることがあります。 この背側迷走神経は、ある意味「体を守るための停止ボタン」みたいなもので、危険から逃げられないときに最後の手段として働きます。人でも、張りつめすぎたあとにどっと疲れて何もしたくなくなる…という経験、ありますよね。それと同じです。 だからこそ、「動」の扱い方には気をつけたいのです。馬とつながれている感覚、安心できる空気があること(理論的に言うと腹側迷走神経が活性化していること)。それがちゃんとある上で動くことができれば、動きは遊びになります。でも、焦りや義務感から動いてしまうと、やがて体も心も悲鳴をあげて、フリーズ状態になってしまいます。 ホースミラーリングセッションでは、このような心身のスイッチを観察することがとても大切です。ただ元気に動けばいい、というわけではありません。むしろ、つながりのある「静」の土台があるからこそ、動きにも意味が生まれてくるのです。 ということで、今回は「動きすぎる」ことで生まれる神経的なリスクについてお話してきました。次回は、実は皆さんが馬に乗っている時、関わっている時、「動」が活性化しすぎてないですか?という話と「静」を作る馬との関係性づくりについてお伝えします。
- #13 ホースミラーリングセッションの深化 vol.3
こんにちは、高田崚史です。5月も半ばになり、もうすぐ野馬追の季節ですね。神の神々しい姿を見ることのできるチャンスです。是非皆さん足を運んでくださいね。ウマット会員の皆様同士の交流もしてもらえると嬉しいです。 さて、今日もホースミラーリングセッションの深化について話をしていきます。シリーズっぽくなっているので前々回の話からまとめておきます(意外と何度も書くことは大事なんですよね!)。前々回では、静と動というアプローチを使うことについて導入を、前回は少しそれをイメージ化してお話ししてきました。 今回は、「静と動」を神経学の観点からお話ししていきます。静というのは、副交感神経のうちの腹側迷走神経が活性しているときです。前回も少しお話ししましたが、簡単に言うと静という前提にあるのは「安心」です。この安心がある時に、人はこの神経系が活性化され心が穏やかになるのです。 皆さんが馬を見つめて、馬が皆さんを見つめているとき…心が落ち着いてくる、癒される…ということを感じた事はありませんか?それが腹側迷走神経が活性化している状態です。つまり、腹側迷走神経とは繋がりを感じる神経なのです。これは哺乳類(馬ももちろんそう)が発展させた神経系です。哺乳類の多くは群れを作ります。それが生存の確率を高めてきました。だからこそ、群れでいると安心なんです。 そして、その腹側迷走神経は人間にとっても重要です。つまり、周りの人と繋がりを感じること、安心が深まることによって人の呼吸は整い心拍はなだらかに変動します。これが「静」の状態です。 前回も少しお話ししました。まずは動の前提となる静が大事です。皆さんは、馬といるとき十分に安心を感じていますか?そもそも馬が怖い、という感覚があるかもしれません。何かしなきゃいけない、という義務感があるかもしれません。そんな感覚を自覚ないまま馬と接しているとどうでしょうか。当たり前ですが、馬はあなたといることを安心しません。これがミラーリングなのです。 では、動とは何でしょうか。基本的には交感神経の活性化です。交感神経とはこれまた生存に必要な「逃走か闘争か」を司る神経系です。乗馬をしている時は必ずこの交感神経も働きます。このエネルギーがないと馬は動かない、という側面もあるでしょう。ただし、静と動のバランスが重要です。つまり、大きな静の前提(繋がっている)状態で動が活性化するとこの交感神経の活性は「楽しさ」になります。子犬同士が遊んでいる姿を想像してください。馬と人との関係性はそこに基づくことが大切です。静に基づく動。馬との関わりは遊びなんです。乗馬も馬術も要は遊びです。 今回は静と動について神経系の話からお話ししてきました。次回は、よくありがちな動が強くなりすぎるケースにおいて神経がどんなリスクを持っているかお話ししていきます。
- #12 ホースミラーリングセッションの深化 vol.2
こんにちは、高田崚史です。5月に入りましたね、皆様GWどのようにお過ごしでしょうか。Horse Valueとしては忙しい月になります。月末には野馬追もありますしね。東京・世田谷の馬事公苑で行われるホースショーにも出展することになっています。是非様々な形でHorse Valueと関わっていただけたら、と思います。 さて、前回ホースミラーリングセッション(HMS)がさらに進化、深化していくというお話をしました。交感神経や副交感神経など神経系について学びを深めるとそこがヒントになっているというお話を軽くしたはずです。その中で「静と動」についてお話ししました。 今日は少しそこを掘り下げていきましょう。前回、馬と歩くということを題材にしてこんなことを書きました。 「馬と対峙している時にまずは副交感神経を高め、馬と同期します。その上で例えば馬と歩く、というときには適切に交感神経を高めて静→動のアプローチをすることで拒否されない関係性が築けるのでは!と思っているのです。」 ここは少し表現の仕方が良くなかったかもな、と思っています。つまり、歩く時にメリハリ良く交感神経を高めて意志を伝えることが大切!という風に捉えられてしまったかも、と思ったのです。実は、この静→動に移って馬が歩いていくというときに、静の時に作った馬との同期モードを維持することが大事になります。止まっている所から歩く、その時に交感神経を高めるとはいっても、ベースにある同期、それによる安心感を維持したまま抵抗感が起きないようにアプローチする「動」が必要になるわけです。 つまり、今まで当たり前に思っていた指示して歩かせる、という概念そのものと少し違う体感を作っていかなければいけないのです。この「動」のやり方については、僕の中でもまだ感覚的に詳細に詰められていません。でもイメージはあります。丹田から動きを生み出してゆっくりと馬に伝わっていく…「じわあ」っと伝わっていく感覚です。 この動の前提にあるのは、静なのですが…こちらの方が重要性が高いのです。次回もう少し詳しくお話していこうと思っていますが、まず簡単にお伝えしておくとこの静の状態の前提にあるのは「安全」を感じていることなのです。 ここで皆さんに聞いてみたいのですが、皆さんは馬といる時、安全を感じているでしょうか?馬に乗っている時はどうですか?そして、馬は皆さんといる時安全を感じているでしょうか?皆さんに乗られている時はどうでしょうか? この前提がないと、静、つまりお互いがリラックスしていて、繋がっていて、同期していて…という状態になれないわけなのです。なので、まずは馬と一緒に静を感じきること、深めきることが重要なのでは?と考え始めています。 こうやって深められたのも、実はウマットメンバーの皆さんと対話したり体験していただいたりしたからなのです。感謝。さて次回は、この静と動について神経学の観点からお話してさらに深めていこうと思います!お楽しみに!
- #10 僕の師匠 (4) Ben Schroeder
こんにちは、高田崚史です。4月がやってきました、春ですね。今日は師匠シリーズの第4弾、Ben Schroederです。実は、彼は前回お話ししたWim Schroederの双子の兄、一緒に厩舎を運営しています。もう一人、この厩舎のオーナーでこの双子の弟がGerco Schroederというのですが、彼はロンドン五輪で銀メダルを獲った選手です。Benはこの3兄弟の中で唯一オリンピックに出場していません。 この兄弟で面白いな、と思ったことは「歩んできたキャリアとか結果によってここまで馬へのアプローチが変わるか」ということでした。Benが唯一五輪に出場することができなかったと言いましたがその理由は単純明快で良いスポンサーに出会うことができなかったからです。そういった点では、Wimは営業気質で天才肌の弟Gercoと一緒にいることで自身も良い馬に乗り成績を出した、という巧い部分がありました。良いスポンサーに恵まれるということは、良い馬に乗ることができます。環境も良くレベルの高い試合に出ることができます。#8でお伝えしたように、能力、環境、やる気の3要素が重要なのですが環境を整えることがうまかったのがWimという訳です。 Benはそういった点では苦労人でした。結果として、馬は「自分で育て、調整し、常にチューニング」されていないと成績が出せなかった。そしてそれをずっとやってきました。つまり、めちゃくちゃ辛抱強い、根気強かった、のです。馬へのアプローチとしては、馬の可能性を信じ、失敗にも前向きで…苦しい中で試行錯誤して楽しむ力が大きかったのです。その点Wimは飽きっぽいところがありました。 脳科学者の西田文朗先生がご自身の理論の中で結果を出す人に必要な力として、成信力と苦楽力という話をされていたことがあります。簡単に言うと、成信力というのが成功を信じる力、つまりイメージ力です。苦楽力というのは、苦しい時にそのシチュエーションを楽しむ力です。僕はWimとBenという2人の師匠を同時期に持つという豪華な体験ができました。先ほどお話ししたようにWimは環境を整えて目標に向かう力、ここでいうと成信力が、Benは苦楽力が強かったわけです。 馬へのアプローチもこの2つの力が大切です。馬と何か目標を達成したいと思ったら鍵はイメージです。どのようなイメージを描けるか、それを馬と共有できるか、という所になります。とはいえ、イメージ通りに行かないときの方が多いです。何十回のうち一回しかイメージ通りいきません。時には大失敗もします。そんな中で馬を信じて苦労を一緒に楽しめるか、苦労で怒ったり悲しんだりしすぎずにポジティブで居続けられるか、これも非常に重要な要素です。 これは人へのアプローチにも通じます。何を隠そう、トレーナーとしてのWimは少し飽きっぽく、結果として僕はBenを頼ることが多くなりました。ただ、Wimは大事な試合や思い出に残る結果を出した時にはサポートしてくれた、というなんとも都合が良い(笑)というかそんなパワーを持った人でした。今トレーナーとして2人が人生を歩んでいますが、それぞれの生徒がどんな結果を出していくのか、楽しみで仕方ありません。 今回で師匠シリーズは終了です。次回からは何を語りましょうか。リクエストがあれば教えてください!読んでいただきありがとうございました。
- #9 僕の師匠 (3) Wim Schroeder
こんにちは、高田崚史です。だいぶ春が近づいてきましたね。ヨーロッパは日が長くなってきましたし、暖かい日が増えてきました。日本でも北海道や雪国の方々は同じかもしれませんが、ヨーロッパの人の春への喜びというのは日本の都会に住む人とは比じゃないですね。春を感じると皆さんが嬉しそうに街を歩き、庭でBBQをはじめ、テラス席で食事をするようになります。僕はそんな姿を見ていつも「虫みたいだなあ」と思っています(笑) さて、今日は僕の師匠シリーズ第三弾、遂に外国人になりました。実は僕の師匠シリーズはあと1回で終わりです。僕の15年くらいの馬術人生においては、師匠は次のBen Schroederを含めて4人です。丁寧に関係性を築いていただけたな、と嬉しくなります。 さて、Wim Schroederという人は2016年から日本代表のコーチを務めた人でもあります。東京五輪でもコーチでした。実は彼との出会いは日本馬術連盟の強化指定選手を選ぶ選考会で出会いました。この強化選手になったら、ドイツのショッケンメーレ厩舎で働きながら強化選手として競技に出る、ということでした。Wimはその選考中から、僕は強化選手になるべきではなく、もっとしっかりとした指導の下成長すべきだ、と選考員の枠を超えて話してくれました。彼の拠点にも連れて行ってくれたり、競技中の彼のチームメンバーにも会わせてもらいました。 その後、選考で落ちてしまった私はWimを頼ります。Wimは喜んで受け入れてくれました。彼が言ってくれた言葉は本当に嬉しく思っています。 「大切なことは人間性なんだ、それがないと人は成長していくことはできない。技術的に光るものと人間性を感じたので受け入れることにした。」 彼自身五輪にオランダ代表として出場し、日本代表のコーチになるくらいですから才能や技術はとびぬけています。そんな人がこんなことを言うとは…前回のブログで誠倫さんが言ってくれた「才能、環境、やる気」これを繋ぐ大きな力が人間性なのだと感じたのです。合理主義と言われるヨーロッパ人がこう言ってくれることが意外でもあり、同時に合理主義だからこそ人間的に合わない、とか関係性を作ることを拒絶している、みたいなことがスポーツの世界でも大きなマイナスになるのだと分かっているようにも思います。 馬との関係性作りについても彼は常々こう言っていました。 「馬を毎日毎日大切だと思って接しなさい。そうすれば、最後の大事な瞬間に馬がライダーを助けてくれる。彼らは必ず101%の力を持って応えてくれる。結果を出すというのはそういうことなんだ。」 こういった部分も、僕自身が彼の哲学や想いにすごく共鳴する部分でした。彼は本当に馬を大切に想い、人を大切に想うそんなコーチでした。一方では、想いはあるんだけど仕組みに落とし込むのが苦手だったり、継続的に計画を立てて人のトレーニングを組み立てるのは苦手だったりしました。その部分を、実は双子の兄でもあるBenと一緒に拠点を運営していくことで補っていました。次回の師匠シリーズ最終回では、そんなBenとの物語について書きたいと思います。 次回をお楽しみに!
- #8 馬の師匠(2)増山誠倫
こんにちは、高田崚史です。ドイツも暖かくなってきました。皆さんいかがお過ごしでしょうか。 さて、馬の師匠(1)を読んでいただいた方は(2)が次来るかな、と予想していたと思います。おそらくこのシリーズは(4)まで続きます。第2回は増山誠倫さんです。第1回で書いた加藤大助さんとは結局7年間の付き合いでした。この終わり方も僕の中ではここで書きたいのですが、とにかく非常に円満でした。大きな感謝と共に、もっと障害馬術を極めるうえでの師匠が欲しい、と思って出会ったのが誠倫さんです。この誠倫さんは、現在でも現役で今年のWC Finalにも出場する一流選手です! 誠倫さんの凄いところは、その姿勢の美しさ。スポーツとしての馬術は才能が重要である、ということを痛いくらいに感じさせてくれる人です。そしてとにかくストイック。身体づくり、馬の飼料…こだわると決めたらとことんこだわる人です。僕はそんな師匠の背中を見て、身体づくりをはじめあらゆる小さなことに気を配るようになりました。結果としてヨーロッパに行く前の基礎を教えてくれた人だと思っています。 誠倫さんは今でも僕の師匠であり憧れの選手なのですが、出会い、そして僕を誘ってくれたエピソードが僕にとって強烈なのでそれを書かせてください。 誠倫さんは小山乗馬クラブという栃木県小山市にある乗馬クラブのオーナーさんなのですが、誠倫さんに出会った頃の僕は加藤さんの下を離れるか1年以上迷っていて関東の乗馬クラブを探していました。その時、誠倫さんは僕にこんな言葉をかけてくれました。 「スポーツにおいて重要なことは3つある。才能・環境・やる気だ。高田君は才能とやる気は揃っている。あとは環境を整えることなんじゃないの?」 この言葉によって、僕は自分の目標にとって最適な環境を選ぶことの重要性を感じました。この言葉はその後欧州に向かう僕にとっての指標になりましたし、若い選手と向き合うことになってからも伝えるようにしてきました。残念ながら僕が例えば馬術部で関わってきた選手の多くはそのどれかが欠けていました。一番勿体ないのはやる気がないことですが、環境を整えることに興味を持てない、勇気を持てない人が一番多い気がします。 多くの人は才能で挫折していると自分で思っています。ただ、僕がプロになれた馬術・乗馬というところにフォーカスしてみると、60%以上のケースは才能以外の部分で躓いています。新しいことを初めて一定期間経つと誰しも成長はどこかで止まってしまいます。そこで才能が足りない…と思ってしまう人がいます。違います。そこで足りないのは、やる気であり環境です。 自分よりうまい人に私は才能がないんです、と言ってみてください。多くの人はにっこり笑って言うと思います。「違います」と。これはある意味残酷な言葉でもあります。才能の見えるところまでやってませんよ、ということです。もしかしたら、これはスポーツに限らないことなんじゃないかな、と私は思っています。自分が成長しようというやる気を持ち、環境を整えること。この大切さを誠倫さんから学びました。 読んでいただきありがとうございました。次回をお楽しみに。
- #7 馬の師匠(1)加藤大助さん
こんにちは、高田崚史です。ドイツは寒いです。オフィスでもマフラーをして過ごしています。ドイツ人は寒さに強いらしい。半袖の人すらいます。 さて、今日は僕の馬術人生の師匠について語っていきます。これ、皆さん絶対に他言しないでくださいね。赤裸々に語りますので(良い話ばかりではないかも)。一人目の師匠は、加藤大助さんです。昨年銅メダルを取った、総合馬術のオリンピックに出場したこともある元選手です。僕が中学1年生で乗馬をはじめ、中学3年生の時に馬術に本格的にのめり込むきっかけとなった人です。 中学3年生で競技生活をはじめた僕は、加藤さんが連れてきた一頭の馬に出会わせてもらいました。アトレーユ、という馬です。この馬ですが、まじで難しい馬でした。乗りこなすのが難しく、跳ねる・暴れる(1鞍で2回落ちたこともある)、厩舎では噛んでくる、障害前で止まる。今の僕が触ったら分かりませんが、今の知識レベルで言うと、良い馬ではありませんでした(ごめんね)。 とっても苦労した僕は、競技会に行くのが怖いレベルにまでなってしまいました。今でも金曜日になると競技会が憂鬱で、月曜日のジャンプ発売を生きがいにしていた覚えがあります。この苦労した経験は後に活きていると思っています。その時にアトレーユのことを悪者にせず、恐怖に震えながら一緒に努力したことは今でも覚えています。結局、アトレーユは結局僕を全日本ジュニア選手権の舞台に連れてってくれました(ちなみにやっとの思いで初出場したそのクラスで優勝したのは神瑛一郎です!)。 そんな後、#2や#3で書いたような名馬ラストドロップに出会わせてくれたのも加藤さんです。さっき書いたように、先に苦労して、その後名馬に出会えた僕は、自分の身の程を知っていました。おかげで天狗になりすぎず、一頭の馬と丁寧に向き合ってきたと思います。これも加藤さんの凄いところではないでしょうか。その時の自分に最適な馬を巡り合わせてくれた人です。良縁を運んでくれる人ほど、自分にとって吉な人はいませんよね。僕も多くの人に良縁を運べるように、良い人と良い人を繋いでいきたいと思っています。 さて、加藤さんについてお話しするときに、必ず思い出すことが加藤さんの口癖です。 「願ったら叶うと思うか?叶わないと思うか?」 加藤さんは酔うたびにそう聞いてきました。そして、僕は常に「叶うと思います」と答えてきました。何を隠そう、それが正解かな、と思ったのが1つ。あとは、叶わないと思います、とは言いたくなかった。良い意味で2択で聞いてくれたから、叶う、と答えたいと思ったのです。 結果として、馬術人生で僕は多くの願いを叶えてきました。僕が15歳で乗っている姿を見たとしたら、その人は僕がこんなにたくさんの夢を叶えるとは思わなかったでしょう。東京オリンピックという願いは叶わなかったけど、オリンピックはこれからもあります。僕は、まだ叶うと思っています。 読んでいただきありがとうございました。次回をお楽しみに。
- #6 馬が合う不思議
こんにちは、高田崚史です。 前回は、ほんとに徒然なるままに、という感じでしたね。そんな感じで力を抜いていきましょう。今僕はドイツに住んでいます。寒いです。今一番寒い時期です。 ドイツは食事が美味しくない。ビアーを片手にソーセージとポテーイトーを食べます。ほぼ毎日同じもの。会社の食事はすべて茶色。色が濃いのに無味。ドイツ食事の悪口を書くと筆が進みます。日本は幸せです。 もしかしたら多くの人は知っている話かもしれませんが、僕と当社代表神との関係性は、胃袋を掴まれた、と言って過言ではありません。神の近くにいると美味しいものが食べられます。僕は2018~2021年までオランダにいたのですが、同時期1年間くらい神もドイツにいました。 僕はドイツ寄り、彼はオランダ寄りに住んでいて車で1時間くらい。彼の家で食べた豚の生姜焼きは僕の人生ベスト5くらいの食事でした。オランダもドイツに負けず劣らずご飯がまずく、補正がかかりすぎていたとはいえ、めちゃくちゃ美味しかったです。鍋でご飯を炊く姿にも感動しました。 もちろんそれ以前からお互いの存在は知っていたのですが、それをきっかけに通うようになり、試合がない週末はほぼ毎週通っていました。その中で、馬術界の課題ややりたいことが出てきたので、ある意味Horse Value誕生の地です(地名は忘れました)。 ちなみに、僕と彼が「馬が合う」のはどうも不思議です。なんだか方向性が違う気がする僕らは馬に関することだと意見がほとんど同じです。たくさん自己分析も、神の分析もしていますがイマイチ分かりません。分かる人は教えてください。 確実に言えるのは、いい加減さは似ているかな。なので、Horse Valueでも周りのメンバーに諭されて事業をやっています。なので、このウマットに関しても甘やかさないでください(笑) 馬が合う、ということで言うと、僕の好きな馬と神の好きな馬は全然違います。彼は少しクレイジーな馬、僕は冷静な馬が好きです。女性の好みが違うのも、仲良くできている秘訣です。僕は、乃木坂系、というか乃木坂が好きなのですが(推しは結婚したらしいので名前を記憶から消しました)彼はTWICE系が好きらしいです。 そんな2人ですが、これからもよろしくお願いします。こういうのが皆さんにとって面白いのかな?色々フィードバックください。 読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみに。
- #5 馬とはできるのに。
こんにちは、高田崚史です。 今日は何を書こうかな…。僕の師匠は毎日メルマガを書いています。凄すぎます。 僕の師匠は、武術をやっています。その影響で僕も武術をやっています。中心道という武術です。師匠の師匠にも習っているわけです。この武術は、体感覚と普段のコミュニケーションを同時に学ぶコミュニケーション武道です。 例えば、相手と組んで倒すんですが、力いっぱいやりたくなっちゃう。相手は抵抗します。こちらが力を抜いてタイミングを合わせると、あら不思議、相手は倒れるしなんだか笑っちゃう。やった⇒やられたの関係性じゃなくなるんです。 こういった体感をコミュニケーションに活かしていきましょうー、というわけです。僕らもホースミラーリングセッションで似たようなことをやっているつもりです。馬との関わりって、体感です。理論的には説明できないこともある。その体感を人とのコミュニケーションに活かす。この武術を学ぶとすごく勉強になります。 身体の使い方は中心、中心。丹田という身体の中心に意識を向けると末端が緩む。ちなみに、僕は身体が超硬くて。稽古に行くといつも笑われちゃうくらいです。馬にも迷惑かけてたぞ!と言われます。 確かに、その通り。 脱力の先に答えがあるのに、ぶつかってばかり。 この稽古に行って馬に乗ると、感覚が変わります。馬との関係性を見直す良いきっかけになります。稽古ではできなかったことが、馬の上だと感覚的に理解できることも。人間って面白い!結局意識の持ち方1つ。 さっきお話ししたことも一緒。倒された、その「事実」に怒ってるんじゃない。倒したった感にイラっとしているんですよね。意識の持ち方次第で相手の反応は変わる。 馬とはできるけど、人とはできない。特に女性と組むとさらにできない。ああ、人と人とでもこの幸せを感じられたらなあ。きっと共感してくれる人もいるはず。 馬との関係性についてお伝え出来るつもりだけど、それも勘違いかも。そうやって「プロだからこそ」疑って、疑って常にアップデートしていきますよ。楽しみにしていてください。皆さんの中には色々な道のプロがいるでしょう、色々教えてください! 読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみに。